裁判 | 平成19年02月13日 最高裁判所第三小法廷 平成18(受)1187 (本解説で紹介する判例は,2.悪意の受益者(1)で紹介した最高裁平成19年02月13日判決と同一です。悪意の受益者にかかる争点とは異なる争点について判断した部分を抜粋したものです。) |
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争点 | 基本契約のない複数取引の場合の充当関係。 |
結論 | 基本契約のない複数取引の場合,特段の事情のない限り,第1貸付過払い金は,第2貸付債務に充当されない。 |
要旨 | 継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約が、利息制限法所定の制限を超える利息の弁済により発生した過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含む場合には、上記取引により生じた過払金返還請求権の消滅時効は、特段の事情がない限り、上記取引が終了した時から進行する。 |
貸金業者Yが平成5年3月,借り主Xに,第1の貸付として高利で300万円を貸し付け,Xは,これを平成15年12月まで弁済を続けたところ,各弁済の制限超過部分を元本に充当すると,平成8年10月以後,過払金が発生していました。
第1の貸付に係る過払い金が発生した後の平成10年8月,YがXに,第2の貸付として高利で100万円を貸し付けたところ,Xは,平成15年12月までその弁済を継続しました。
第1の貸付と第2の貸付について,XY間では,継続的に貸付が繰り返されることを予定した基本契約は締結されていませんでした。
以上の事案においてXは,第1の貸付に係る債務の各弁済金のうち利息制限法の制限超過部分を元本に充当すると発生する過払金は,第2の貸付に係る債務が発生した場合に第2の貸付に係る債務に充当されると主張しました。
最高裁は,貸主と借主との間で継続的に貸付が繰り返されることを予定した基本契約が締結されていない場合において,第1の貸付に係る債務の各弁済金のうち利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると過払い金が発生し,その後,第2の貸付に係る債務が発生したときには,特段の事情のない限り,第1の貸付に係る過払い金は,第1の貸付に係る債務の各弁済が第2の貸付の前にされたものであるか否かにかかわらず,第2の貸付に係る債務には充当されない旨の判示をしました。
複数の金銭消費貸借契約が観念される場合(一つの基本契約に基づいて借入,弁済が繰り返されている場合ではないとき)における借主による当然の指定充当(この場合,借主が任意に第1の貸付に係る過払い金を第2の貸付に係る債務に充当することを選択できることをいいます。)を複数の金銭消費貸借契約には妥当しないことを示したといえます。
最高裁は,同一の貸主と借主との間で基本契約に基づき継続的に貸付と返済が繰り返されている場合については,最高裁平成15年07月18日判決で示したように,借主の合理的意思を尊重し,特段の事情のない限り,一つの借入金債務について発生した過払い金について,弁済当時存在する他の借入金債務に充当される旨,判示していました。
他方,本判決では,同一の貸主と借主との間に複数の貸付が並行して存在するものの,それらが基本契約に基づくものではなく,また,継続的に貸付と返済が繰り返されて発生したものでもないというような場合には,各貸付は,個別の経緯の下で成立し,個別の性質を有するから,当然に他の借入金債務に充当されるわけではないという基本姿勢を示しています。
もっとも,本判決は,「特段の事情」が認められる場合に他の借入金債務に充当されると判示します。そして,本判決は,指定充当を複数個の金銭消費貸借契約には妥当しないという判断を示したのではなく,むしろ,「特段の事情」という枠組みを用いて「弁済充当の合意」に基づく充当を一般論として認めており,この点において最高裁平成19年07月19日判決,最高裁平成20年01月18日判決と整合するものといえるでしょう。