裁判 |
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争点 | 貸金業者が17条書面として交付した書面に個々の貸付けの時点での最低返済金額を毎月の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等の記載がなかった場合,貸金業法43条1項(みなし弁済)の適用があると信じるにつき特段の事情があるといえるか。 |
結論 | リボルビング方式の貸付けについて,17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をしない場合は,当該貸金業者が制限超過部分の受領につき貸金業法43条1項(みなし弁済)の適用があると信じるにつき特段の事情があるとはいえず,当該貸金業者は「悪意の受益者」にあたる。 |
本件では,貸金業者から借主への貸付けにおいて,(1)元利均等分割方式が採られ,また,(2)借主が約定の分割金の支払いを怠った場合には当然に期限の利益を失い,同貸金業者に対して直ちに債務の全額を支払うという,いわゆる期限の利益喪失特約が付されており,この特約の下で借主は貸金業者に対して弁済をしていました(以下「本件支払い」といいます。)。
このような特約の下で,貸金業者が制限超過部分を受領したということは,「悪意の受益者」性とどのような関係があるかが問題となりました。
平成18年01月13日の最高裁判決で,上記のような特約の下での制限超過部分の支払いは任意になされたものとはいえず,貸金業法43条1項は適用されないと判示されていました。
また,平成19年07月13日の最高裁判決では,貸金業者が制限超過部分を受領したことについて同条項の適用が認められない場合には,当該貸金業者が同条項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するにいたったことについてやむを得ないといえる特段の事情があるときでない限り,「悪意の受益者」にあたると判示しました。
そこで,期限の利益喪失特約の存在により貸金業法43条1項の適用が認められない以上,貸金業者は原則として「悪意の受益者」にあたり,過払金に年5%の割合による利息を付加して返還しなければならないとも考えられていたところに本判決が下されました。
本判決の原審は,(1)上記平成18年判決に従い,本件支払いは任意のものとはいえず,貸金業法43条1項は適用されないとした上で,(2)平19年判決を引用し,平成18年判決以前において上記のような支払いは任意性を欠くものではないという解釈が最高裁判例により裏付けられていたものではないため,「特段の事情」があるとはいえず,当該貸金業者は「悪意の受益者」であると認められると判示しました。
これに対して最高裁は,期限の利益喪失特約の下での利息制限法所定の制限を超える利息の支払の任意性を初めて否定した平成18年判決の言渡し日以前にされた制限超過部分の支払について,貸金業者が同特約の下でこれを受領したことのみを理由として当該貸金業者を民法704条の「悪意の受益者」と推定することはできないと判示しました。
本判決は,平成19年判決が示した法理の当てはめに関するものですが,平成18年判決以前は制限超過部分の支払いにつき期限の利益喪失特約の下での受領というだけでは「悪意の受益者」であることは推定されないという判断を示したものといえます。
これを受け,貸金業者側は,平成18年判決以前に期限の利益喪失特約の下で受領した制限超過部分の支払いにつき,「悪意の受益者」にはあたらないという主張を行うようになりました。
期限の利益喪失特約下での支払い | ||
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平成18年判決 | ||
貸金業法43条1項の適用なし | ||
平成19年判決 | (特段の事情がない限り) | |
悪意の受益者と推定される |
しかし,本判決は,平成18年判決前に期限の利益喪失特約下での支払いを受けたという一事をもっては上記「特段の事情」の有無を判断することはできないといったものにすぎず,なお上記図のような判例理論は維持されています。そのため,貸金業者が期限の利益の喪失特約下で債務者から支払いを受けた場合,当該貸金業者は,貸金業法43条1項の適用があるとの認識を有しており,かつ,そのような認識を有するにいたったことについてやむを得ないといえる特段の事情がない限り,悪意の受益者と推定されるため,貸金業者側は右特段の事情の存在についての反証が奏功しない限り,悪意の受益者であると認められることになります。当事務所においても,この判例を前提としながら,右特段の事情がないということを各事案に応じて主張するという対応をしております。